心不全とBNP検査



  高齢化や食生活の変化などにより、生活習慣病でもある心臓病は日々増加しています。

  心不全の有病者は250万人〜300万人とも言われており、心臓病における死亡総数は、悪性新生物についで死亡

原因の第2位になるほどです。

  そこで今、心臓の元気度がわかる『BNP』とよばれるホルモンの検査が注目されています。






★心不全とは?




  「心不全」は病名ではなく、心臓が衰えた状態をあらわす「症候名」です。

  心臓のポンプ機能が低下するために全身に十分な酸素が送れず、全身の血流が滞るため、その結果として身体に

さまざまな症状がでるものをいいます。  

  心不全のおもな症状として、「階段や坂道をのぼると息が切れる」「少し動いただけでも疲れる」「体がむくみやすい」

などがあげられます。  

  心不全の原因となる疾患はさまざまで、心筋梗塞、弁膜症、高血圧による心肥大、さらに不整脈などがあり、その他  

にも心筋症や肺高血圧症と、その原因は多岐にわたります。糖尿病や、睡眠時無呼吸症候群も心不全を引き起こす   

危険因子となります。   

  また、乱れた生活習慣や肥満、加齢、飲酒、喫煙、過労、ストレスなども危険因子としてあげられます。





★心不全の分類




心不全は、状態が安定しているか否かによって、慢性心不全と急性心不全に分類することができます。

    慢性心不全・・・状態は安定している

               徐々にあらわれ、長期間持続する  

               高血圧、心臓弁膜症、肥満などが原因であることが多い  

    急性心不全・・・状態が急激に悪化する 

               過労、ストレス、他の病気などが引き金になることがある

               突然死の原因になることもある





★心不全の症状


  

   ・十分に血液(酸素)を送り出せないので・・・

     →からだに必要な酸素が足りなくなり息切れがしたり疲れやすくなります。

     →細い血管に血液が行き渡らなくなるので手足の先が冷たく、肌の色が悪くなります。

   

   ・血液をうまく体中にまわせなくなるので・・・

     →血液がスムーズに流れないので、臓器に水分がたまりやすくなります。

     →立っている状態が長いと、とくに足の甲やすねのあたりがむくみます。

     →肺に血がたまる(肺うっ血)と水分が肺にしみだし、さらに進むと酸欠状態になるので、安静にしていても呼吸

      が困難になります。 

 

   ・心臓が大きくなります。

 

   ・消化器症状として食欲不振、腹部膨満感ぼうまんかんも起こります。

 

   ・腎臓の血流が減るため尿の量が減り、からだ全体に水分がたまって体重が増えます。

 

   ・夜間にはトイレに行きたくなり、何度も目が覚めてしまうことがあります。





★心臓の検査にはどんな検査があるの?



  1.胸部レントゲン

    心臓の大きさや形をチェックします。心臓が大きくなった様子や、肺に水がたまり写真上に白く    

    映る状態(肺うっ血)が見つかることがあります。

  2.心電図検査

    心臓の壁が厚くなっていないか、狭心症や心筋梗塞がないか、不整脈がないかを調べます。

  3.心臓超音波検査(心エコー)

    心臓の動きは十分か、排出量がどの程度なのかなどを詳しく調べます。

    心不全の原因として心臓にどんな病気があるのかを調べます。

    治療効果をみるときにも使われます。

  4.心臓カテーテル検査

    足のつけ根や腕の動脈から細い管(カテーテル)を入れて造影剤と呼ばれる写真に写る液体を

    冠動脈の中に流し、心臓の血管に狭いところがないかや、心臓の機能を評価します。

  5.血液検査

    心臓に負荷がかかると合成、分泌されるBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)という物質を測り

    ます。心臓病(特に心不全)の重症度をみるためにも有用な検査です。





★BNPとは?


  BNPとは心臓(おもに心室)から分泌されるホルモンで、利尿作用、血管拡張作用、交感神経抑制、心肥大抑制などの

作用があり、心筋を保護するように働きます。

  心臓に負荷が増えたり心筋の肥大がおこると増加するので、血液中の濃度を調べることで、心臓の状態がわかります。   

     

   ≪メモ≫ 従来BNP検査は「心不全の病態把握」のための検査として使用されていましたが、2007年6月1日より   

   「心不全の診断」にも使用することが保険で認められました。BNPは自覚症状が出る前から血中濃度が上昇する   

   ことが証明されていますので、心機能低下の早期発見にも有用であると考えられます。





BNP値と日常診療上の評価
    心疾患の有無 心不全の重症度 専門医による
診察・治療
18.4pg/dl未満 基準値 どちらとも
言えない
慢性の心不全はない 場合によっては必要
40pg/dl以上〜
100pg/dl未満
要観察 どちらとも
言えない
慢性の心不全による症状は
ないことが多い
場合によっては必要
100pg/dl以上〜
200pg/dl未満
要精査・要治療 心疾患あり 多くは無症状の心不全 一度はあった
ほうがよい
200pg/dl以上〜
500pg/dl未満
専門医による
治療が必要
心疾患あり 心不全の可能性あり 専門医による
治療が必要
500pg/dl以上 厳重な治療が
必要
心疾患あり 重症心不全 入院も含めて厳重な
治療が必要





    ☆★☆ 日常的な生活での注意点 ☆★☆

  心不全の原因となる疾患の進行はなくとも、時に心不全は悪化することがあります。ただし多くの場合、    

  悪化の引き金になるようなことに心掛ければ避けることができますので、下記のことに注意しましょう。    

  <適度な運動を行いましょう>

   心臓に疾患があるからといい運動を全然行わないのは問題があります。動悸や息切れが起きない

   ぐらいの軽い運動は行っておきましょう。息苦しくなるほどの運動は心不全の進行を早める原因に    

   なりかねませんので注意しましょう。

  <過労や風邪に注意しましょう>   

   心不全の時に風邪にかかってしまうと咳やタンが出る気管支炎になる場合があります。    

   しばしば、心不全が悪化する原因になるので注意しましょう。    

  <食生活の改善をしましょう>    

   ・水分と塩分の制限を!    

   塩分の取りすぎは体からの水分摂取の妨げとなるので、塩分の制限は水分制限以上に重要な意味    

   があります。心不全では心臓から腎臓へ送る血液量が減少するため循環が十分に行われず、水分    

   が体内に残ってしまうので、水と塩の摂取は適切な量にしなければなりません。すでに、心疾患や    

   高血圧のある方は1日の摂取塩分は6g以下を目安にしましょう。    

   ・脂肪は質を考えて!    

   まず、肥満は心臓に対して大きな負荷となるので、適正体重を維持する食事を心掛けましょう。    

   油は、動物性脂を避け、植物性脂を使用することを心掛けると同時に植物性脂の取りすぎにも    

   注意しましょう。    

   ・コーヒーなどの刺激物は控えましょう    

   コーヒーに含まれるカフェインは血圧を上昇させることがあります。    

   ・過度の飲酒も控えましょう

  <睡眠は十分とるように心掛けましょう>

  <禁煙をしましょう>    

   タバコは血管を収縮させるため、心臓に負担がかかります。








 健診や人間ドックで心臓の病気をチェックする一般的な検査としては、心電図が広く行われています。しかし、心電図だけでは病気を

検出できない場合もあり、心電図とBNPの両方を行うことで、より心臓病の発見率の感度があがることも報告されています。

 心不全の方だけでなく、「心疾患が心配」「血圧が高い」「たばこを吸う」など、こういった方も一度BNP値のチェックをお勧めします。

 採血するだけですので時間もかかりません。   

 お近くの診療所や当センターの健診においてもBNPの検査を実施しておりますので、お気軽にご相談ください。